市場になくてはならないものが、飯屋・食堂のたぐいだ。
それはラーメンでもいいし、うどんでもいい。
とにかく市場歩きは腹が減る。
時として腹が空いて歩行困難になるほどだから気をつけなければならない。
さて今回の市場歩きは宮崎県延岡市延岡魚市場。
ここで豊富な魚貝類がみられて楽しかった。
でも、それ以上によかったのが『はりまや』のうどんだ。
『ミツイ水産』社長の伊東吉成さん、石井潤一郎さんに市場でご飯を食べたいのですけど、といって教えて頂いた店だ。
延岡魚市場に食堂らしき建物はなく、挟んだ倉庫のような建物脇にバスが数台とまっている。
なんだろうな? と考えるまでもなく道路際に紺色の「うどん」と書かれた幟が翻る。
石井潤一郎さんの後をついてバスにたどり着くと、白いライトバンの後部ドアが跳ね上がって、そのなかが立派な「うどん屋の厨房」となっているのだ。
その前に並ぶオニイサン、オヤジ達がちょっとむさ苦しいというか、ゴッツイ。
気押されていたら、石井さんが「なににしましょう?」と聞いてくる。
なんだかせかされている気がして、うどん(上にのせるのは)天ぷらと魚のフライ、おにぎり2個にする。
焦っていないじゃないか、充分すぎるくらい頼んでいるじゃないか? と思われそうだけど、こんなときには目に付いたものは躊躇なく食べてみるに限る。
石井さんが注文しようと左手をやや上げ加減にすると、
「ちょっと順番でやりますから」
ライトバンの中から女性の声がする。
屈んで中を覗くと可愛らしいポニーテールの女性が、まるで小リスさんのようにテキパキとうどんを作っている。
こんなきれいなお姉さんが作るんだから「うどんの味は保証つきだ」なんて思った。
やっと落ち着いて品書きを見ると「ミックス大盛り」というのがあるではないか、そっちにすればよかったなんて激しい後悔の念が浮かんでくる。
変更したいなと思ったけど、どうやら石井さんがご馳走してくれるらしく、大人しく遠慮したのだ。
やっとうどんができた。
うどんの置かれた台に「超激辛っす まじっすよ」と書かれた一味唐辛子がある。
やけに大げさな、と思いながら一さじ放り込む。
さてバスに乗り込んで、ここが食堂となっている。
ちょうど運転手の真後ろに宮崎交通「はりまや」の停車場の標識。
窓側に板が渡してあって、そこではすでに厳つい宮崎の男達がさもうまそうにうどんをすすっていた。
さて、空腹感は頂点に来ている。
やっとありついた朝飯だ。
朝日を浴びて、うどんをすする。
上にのっかるかき揚げはゲソと玉ねぎ、魚のフライが軽く揚がって香ばしい。
青ネギに、なぜか竹輪の輪切り。
出し加減塩分濃度のバランスがいい。
つゆはどちらかというとあっさりしたもので、大阪風ではなく四国のに近い。
ようするに何杯でも食えるタイプだ。
残念なのはうどんが柔らかく腰がない上に、歯切れも悪い点だが、そんなことが些細に思えるほど全体の味わいはいい。
さて、なにげに小さじ一杯いれた一味唐辛子だが、これが本当に辛かった。
辛くて香り高い優れもの。
どんぶりをお姉さんに返しながら、もういっぱい食べたいななんて欲望が沸きに沸いてきたが、大人しく次の市場を目差すのだ。
延岡魚市場 宮崎県延岡市昭和町2の56
ミツイ水産
http://mitsui-suisan.co.jp/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
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