2008年12月アーカイブ

 昨年、フリーライターのエンテツ(遠藤哲夫)さんから『雲のうえ』の取材で北九州にいったことをお聞きした。
 『雲のうえ』は最近話題のフリーマガジンで、初めて見たのが今はなき神保町書肆アクセスである。
 地方自治体が出しているものなのに素晴らしい編集で、なにより文章がいい。
 エンテツさんの特集が見たくて閉店する直前のアクセスで『雲のうえ 5号 めし大盛りにしとって』を手に入れた。
 だからどうしても書肆アクセスの閉店と『雲のうえ』が重なってしまう。

 さて、エンテツさんの文章を読み、ボクも北九州に行きたくなっていたのだ。
 北九州市で浮かぶことといったら工業都市、鉄とコンクリートで無機質なものだった。
 それが『雲のうえ』を読むことでがらりと変わる。
 街歩きが好きで堪らないボクにとって、なんて魅力的な都市なんだろう。
 まして北九州市には無数の市場が点在するという。

 あれから一年以上が経っている。
 時刻表を買い求めて、北九州小倉までたどり着く方法をいろいろ考える。
 値段が安く、しかも早朝に到着する方法。
 なにしろ前日の夜まで仕事なのだから、深夜バスで目差すのがいちばんいい。
 ただ本当にバスの時刻までに仕事が終わるのかどうか、わからない上に値段を比較すると新幹線との差額が小さいのだ。
 例えば徳島に帰郷するならバス利用とJRでは半額、空路だと3分の一しかしない。
 ところが九州だと新幹線とは25パーセントの違いしかない。
 最近の激務からすると深夜バスの10時間というのは無理としかいいようがない。
 決まらないまま、火曜日は深夜まで仕事をした。

 水曜日、早朝4時過ぎに我が家を出る。
 新幹線博多行き6時の始発に飛び乗って一路西に。
 新神戸を過ぎる頃から南の車窓から見える景色が霧に白くつつまれてくる。
 関門トンネルはあっけなく、なんのアナウンスもなくくぐり抜けて、小倉側に出て海側を見るとこれまた霧で白い。
 小倉駅到着が午前9時半。

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 駅から降るエスカレーター、急ぐ人は右側、すなわち東京と同じなのを確認して駅を南に出る。
 駅から続くモノレールの線路(?)、向かって左側に大きなデパート、右にはごみごみした商店街があるようだ。
 市役所を駅の地図で確認して、とにかく大体の見当で歩く。
 賑やかな商店街、年末ジャンボ宝くじを売っていたので、記念に買う。

 通りを抜けるとほどなく川に行き当たる。
 ちょうどそこが橋のたもと。
 井筒屋というデパート(?)の警備員の方に市役所の場所をたずねる。
「橋の向こうに、城が見えますでしょ、その隣にある黒いビル、あれが市役所です」

 橋を渡ると不思議な形のビルがあって、今から噴水が始まるから川のそばにいないように、といったアナウンスが流れる。
 何気なく対岸を見ると川縁で魚釣りをしている人が竿を立てている。
 水面から魚が跳ね上がったのだけど、獲物はなんだろう。

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 右手に小倉城。
 小倉藩15万石の城なのでなかなか立派だが、実は1959年に復元されたもの。
 藩主小笠原家というのは鎌倉時代以来の名家。
 礼法「小笠原流」でも有名であるけれど、幕末の第二次長州征伐での惨めな負け戦の方が印象深い。

 市役所、「にぎわいづくり企画課」をお尋ねし、同課の桑本さんに市内市場の情報をお聞きする。
 しかも市場の地図、ほとんど在庫のない『雲のうえ 二 おーい、市場!』までわけて頂く。
 北九州市役所ならびに桑本さんに感謝。

 さて、晴天で雲一つない。
 今日は市場をいくつ見て回れるのだろう。
 
北九州市にぎわいづくり懇話会
http://lets-city.jp/konwakai/index.html
旦過市場
http://www.tangaichiba.jp/

 世の中なにが楽しいかというと知らない街で、知らない市場(商店街)に飛び込むほど楽しいことはない。
 市場にも種類があって、流通の一翼を担うのが中央卸売市場だし地方卸売市場だったり。
 たいするに町中に小さな店舗が肩寄せ合って、商店街なのか市場なのかわからないのもある。
 大阪にはこんな市場が多いという。

 地下鉄長堀緑地線蒲生四丁目駅からすぐのところ。
 大通りから一歩路地を入ると賑やかな商店街となる。
 そこに城東市場がある。

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 市場の回りには商店街が格子状にあり、そんな商店街の一角でオバチャンがたったひとりで天ぷらを揚げているのを見つけた。
 その店先にある天ぷらがうまそう。
「いわしの天ぷらください。ここで食べますから」
 思わず店先でお願いする。
「はいはい、どうぞ」
 薄いビニール袋に入れてくれた、50円玉一個で買った天ぷらを店の前でかぶりつく。
 見た目うまそうでも、食べたらまずいというのが多々あるなか、このオバチャンのは食べたら思った以上にうまかった。

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 さてボクの後ろにいるのが大阪市場探検隊のメンバー、まささんと、おふるさん。
 まささんが「ボクにもひとつ」、といってボクに続く。
 おふるさんが何ししようか迷っていたら
「一個食べてみて」
 なんとオバチャンが「こうてくれんでもええから食べてみて」なんていうのだ。
 それでおふるさんが「うずらの玉子」、ボクとまささんが紅ショウガの天ぷらをいただく。

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「うち小さい(店)やろ、オバアチャンなひとりでやってるしな。儲けようなんて思うてないの。食べてな」
 オバチャンの笑顔が優しい。
「あのな、よしもと新喜劇てあるでしょ。そこに出てる若い娘(こ)で●●ちゃんな、知ってる。オバチャンの天ぷらがおいしいていつもいうてくれるん」

 『よしもと』の●●ちゃんという女優さんは知りまへんが『槇』の天ぷらがどえらいうまいし、どえらい安さなのにビックリ。
 からっと揚がっていて、油臭みがまったくない。
「これならなんぼでもいけまっせー」という名品揃いだ。
 ほとんどのネタが50円、いちばん高い丸あげ(エビを一本まるまる揚げていると言う意味か?)で100円しかしない。
「オバチャンありがとう、また来るからね」
 本当に、もう一度オバチャンに会うためだけでも大阪に来たいと思ったのだ。

槇 大阪府城東区今福西1の10の1 城東市場裏
甘草荘
http://blogs.yahoo.co.jp/thecacera_pacifica/MYBLOG/yblog.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/

大阪木津卸売市場

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 木津市場は難波から地下鉄で一駅。
 大国町から歩いて数分のところにある。
 古くからプロだけではなく大阪庶民の台所として親しまれている。
 ただし朝方はあくまでプロのじゃまにならない配慮が必要となる。

 その歴史は古く、なんと正徳年間であるとのこと。
 このときはまだ西高東低、関西地方の文化・技術が関東江戸よりも優位にあった。
 また徳川家宣、新井白石の時代でもある。
 大正時代に木津の雑喉場(ざこば)と難波の青物市場が合併して現在の形となった。
 地方市場であり、早朝には集まった荷にたいして競り、相対が行われる。

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改築し終わった青果棟。夏は涼しくて快適であるが情緒には欠ける。

 場内は2008年、昔ながらの市場情緒が感じられ、その佇まいに惹かれるところ大だ。
 残念ながら再開発改築が進んでおり、2008年現在青果棟は新築移転済み。
 水産棟関連棟も含めて2010年に向かって大きく変貌しつつある。
 さて場内には青果、水産、塩干、関連とたくさんの仲卸店舗が軒を並べる。
 今のところ迷路のような通路が発泡に曲がり通じていて中央市場にはない大阪らしさにあふれている。

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 青果も水産物も近隣の和歌山や関西、四国からのものが多く、陸送もの(遠方から)がそこに加わる。
 山陰地方、北陸からの荷も多数見られる。
 青果では泉南のもの。
 水ナス、大阪白菜、天王寺蕪など伝統野菜、また三重県奈良県などからのずばぬけた鮮度のものがそこここに見られる。
 魚貝類は大阪湾、泉南、和歌山県からの活けものがたっぷりなのが魅力のひとつ。

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 とくに大阪湾から揚がったばかりの小エビ類(アカエビ、サルエビ)などが生きてはね回っている光景は、東京築地などには見られない。
 前浜の魚があるということでは大阪の方が東京よりも遙かに優れている。
 そしてスズメダイ、アカエイなどがあって、これは韓国料理には欠かせないものだ。

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 関連店舗にも見るべきものが多い。
 昆布の専門店、カツオ節など「だし関係」の店が多い。
 乾物の棒だら、干し湯葉なども関西らしいものだろう。
 またコンニャク、豆腐など売る店舗には必ずゼンマイが戻して売られている。
 こらがまことに良質なものだ。
 また食肉関連では「かしわ(鶏肉)」のいいものがあった。

 市場と言えは欠かせないのが市場飯。
 ちょっと高めだが老舗の「かなえ寿し」は近海物のネタが楽しめる。
 うどん屋、持ち帰りのウナギ屋なども魅力的だし食堂も何軒かある。
 また大阪の市場ならでは喫茶店の多い。

●本稿は改訂を繰り返していく。

食の満足度 ★★★★★
●食の満足度は、食に関する発見、うまい食材が手に入る度合い。満足度が高いほど★が増える。満点は5つ★
気軽さ/★★★
●気軽さは、一般人が入って買い物が出来るかできないか、楽しいか楽しくないかなど。買い物がしやすい、楽しいほど★が増える。満点は★5つ
市場の種類/地方卸売市場
住所/大阪木津卸売市場 大阪府大阪市浪速区敷津東2-2-8
http://www.shoku-sta.jp/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/

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 市場になくてはならないものが、飯屋・食堂のたぐいだ。
 それはラーメンでもいいし、うどんでもいい。
 とにかく市場歩きは腹が減る。
 時として腹が空いて歩行困難になるほどだから気をつけなければならない。

 さて今回の市場歩きは宮崎県延岡市延岡魚市場。
 ここで豊富な魚貝類がみられて楽しかった。
 でも、それ以上によかったのが『はりまや』のうどんだ。

 『ミツイ水産』社長の伊東吉成さん、石井潤一郎さんに市場でご飯を食べたいのですけど、といって教えて頂いた店だ。
 延岡魚市場に食堂らしき建物はなく、挟んだ倉庫のような建物脇にバスが数台とまっている。
 なんだろうな? と考えるまでもなく道路際に紺色の「うどん」と書かれた幟が翻る。
 石井潤一郎さんの後をついてバスにたどり着くと、白いライトバンの後部ドアが跳ね上がって、そのなかが立派な「うどん屋の厨房」となっているのだ。
 その前に並ぶオニイサン、オヤジ達がちょっとむさ苦しいというか、ゴッツイ。
 気押されていたら、石井さんが「なににしましょう?」と聞いてくる。
 なんだかせかされている気がして、うどん(上にのせるのは)天ぷらと魚のフライ、おにぎり2個にする。
 焦っていないじゃないか、充分すぎるくらい頼んでいるじゃないか? と思われそうだけど、こんなときには目に付いたものは躊躇なく食べてみるに限る。

 石井さんが注文しようと左手をやや上げ加減にすると、
「ちょっと順番でやりますから」
 ライトバンの中から女性の声がする。

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 屈んで中を覗くと可愛らしいポニーテールの女性が、まるで小リスさんのようにテキパキとうどんを作っている。
 こんなきれいなお姉さんが作るんだから「うどんの味は保証つきだ」なんて思った。
 やっと落ち着いて品書きを見ると「ミックス大盛り」というのがあるではないか、そっちにすればよかったなんて激しい後悔の念が浮かんでくる。
 変更したいなと思ったけど、どうやら石井さんがご馳走してくれるらしく、大人しく遠慮したのだ。
 やっとうどんができた。
 うどんの置かれた台に「超激辛っす まじっすよ」と書かれた一味唐辛子がある。
 やけに大げさな、と思いながら一さじ放り込む。

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 さてバスに乗り込んで、ここが食堂となっている。
 ちょうど運転手の真後ろに宮崎交通「はりまや」の停車場の標識。
 窓側に板が渡してあって、そこではすでに厳つい宮崎の男達がさもうまそうにうどんをすすっていた。

 さて、空腹感は頂点に来ている。
 やっとありついた朝飯だ。
 朝日を浴びて、うどんをすする。

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 上にのっかるかき揚げはゲソと玉ねぎ、魚のフライが軽く揚がって香ばしい。
 青ネギに、なぜか竹輪の輪切り。
 出し加減塩分濃度のバランスがいい。
 つゆはどちらかというとあっさりしたもので、大阪風ではなく四国のに近い。
 ようするに何杯でも食えるタイプだ。
 残念なのはうどんが柔らかく腰がない上に、歯切れも悪い点だが、そんなことが些細に思えるほど全体の味わいはいい。
 さて、なにげに小さじ一杯いれた一味唐辛子だが、これが本当に辛かった。
 辛くて香り高い優れもの。

 どんぶりをお姉さんに返しながら、もういっぱい食べたいななんて欲望が沸きに沸いてきたが、大人しく次の市場を目差すのだ。

延岡魚市場 宮崎県延岡市昭和町2の56
ミツイ水産
http://mitsui-suisan.co.jp/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/

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